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脱炭素の切り札として、いま欧米を中心に世界中で注目されている技術がある。 「太陽を人工的に作る技術」とも言われる「核融合炉」だ。 【全画像をみる】世界が注目の「核融合炉」。日本のベンチャーもイギリス法人を設立、覇権を握るのは? イギリスでは、2021年10月1日に核融合戦略を発表。プロトタイプの商用核融合炉の建設地候補の選定も進んでいる。 10月末からイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26でも、会議の最終日に核融合炉に関するセッションが設けられるなど、核融合への関心が高まっている。 日本初の核融合ベンチャーである京都フュージョニアリングで事業・マーケティング本部長を務める世古圭氏は、イギリスや世界の現状について次のように語る。 「(イギリスは)EUを離脱してからというもの、エネルギー政策の転換を迫られています。過去、イギリスはエネルギーを北海油田に頼っていました。LNGや原子力はあるが、ほかに資源を持っていない。そこで国としてベースロード電源を確保し覇権を握れそうな技術として、『核融合』があったんです。いまはその覇権争いの中で、イギリスとアメリカが競っており、中国も参入してきている状況です」(世古氏) 2020年代に民間企業による実証炉の稼働計画も 核融合炉では、太陽で起きている反応(核融合反応)を地上で再現することで、二酸化炭素を排出せずに膨大なエネルギーを得ることが可能だ。この熱を使って発電する「核融合発電」が、新たなエネルギー源として期待されている。 「核」という言葉から、核廃棄物の懸念を抱く人もいるかもしれないが、ウランやプルトニウムのような高レベル放射性廃棄物は発生しない。仕組み上、トラブルがあると自然と核融合反応が停止するため、原子力発電所のように暴走する心配もない。 核融合炉といえば、数十年にわたり日本も参画している国際的な枠組みである「ITER計画」において、フランスで実験炉の建設が進められている。しかし、その巨大さや巨額の資金がかかる点、さらに工期が遅れている状況などから、発電まで実現できる核融合炉の実現は数十年後の「未来」になるという見方が強かった。 しかし、ここ10年の間に核融合炉の小型化技術が発展するなど、アメリカやイギリスを中心としたベンチャー企業による技術開発が加速している。 なかには、2020年代半ばごろまでに実証炉を稼働させようと計画するベンチャーも複数ある。 COP26開催前の6月には、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏が出資したことでも知られているカナダの核融合ベンチャーgeneral fusion が、英国原子力公社(UKAEA)のカルハムキャンパス内に建設する予定の核融合実証炉の建設・運営に関する契約を結んだと発表。 2022年にも建設が開始される計画で、順調に進めば2025年に稼働することになるという。 この契約について、general fusion のCEOであるクリストファー・モーウィー氏は 「これは、general fusion だけでなく、実用的な核融合エネルギーを開発するための世界的な取り組みにとっても非常にエキサイティングなニュースです」 と、核融合炉の実現がもはや遠い未来の話ではないことを期待させた。 世界の核融合への投資額は、すでに数千億円規模へ 米核融合産業協会(FIA)と英国原子力公社(UKAEA)が2021年11月にまとめた共同レポートによると、過去30年間に参入する企業が増加。共同レポートでヒアリングされた核融合技術を保有する主要23社のうち、15社が過去10年間に設立されたベンチャーだった。 また、これらの企業には2021年10月に共同レポートが発表された段階で総額約19億ドルにもなる巨額の民間投資が流れ込んでおり、その後も投資は加速している。 2021年11月にはHelion Energy(アメリカ)が実証炉建設のために5億ドルを調達。general fusionも1.3億ドルの資金調達を実施している。 12月には、ビル・ゲイツが出資しているCommonwealth Fusion Systemsも約18億ドルの資金調達を実施した。この資金は、マサチューセッツ工科大学などと共同研究している「SPARC」と呼ばれる2025年に運転を開始する予定の実証炉の建設・運転資金として充てられる見込みだ。 民間投資の総額は現状で約40億ドルを超えており、そのうち約90%が先述したgeneral fusion(カナダ)、Commonwealth Fusion System(アメリカ)、TAE Technologies(アメリカ)、tokamaku energy(イギリス)、Helion Energyの5社に集中している状況だ。 このように、欧米を中心に巨額の資金とともに、実証炉の開発や商用炉の建設計画の検討が始まっている。 世界で活況な核融合産業、日本の立ち位置は? 核融合ベンチャーなどに対して積極的な投資が進む欧米に対して、日本はどうか。 日本では、国の研究機関である量子科学技術研究開発機構(QST)がITER計画に参画する際の中心的な役割を担い、技術開発を続けてきた。茨城県那珂市にある研究所では、実証炉JT-60SAによる研究が進められている(現在トラブルにより停止中、2022年2月に統合試験運転を再開する予定)。 また、2019年には、日本初の核融合ベンチャーとして、長年核融合に関する研究開発を続けてきた京都大学の小西哲之教授らが京都フュージョニアリングを設立。 京都フュージョニアリングは、自社で核融合炉そのものの建設を担うというより、核融合炉の基幹装置を販売することで、核融合業界の「リーバイスになる」と意気込んでいる。 実際、2021年秋には、UKAEAが計画している既存の核融合炉のアップグレード計画(MAST Upgrade)に同社が開発する核融合炉を「加熱」する装置「ジャイロトロン」を納品する契約を結んだほか、2040年に稼働を目指す商用核融合炉のプロトタイプを建設する計画(STEP)に設計段階から加わることが決定。 世界の核融合ベンチャーと比べて設立は遅れはしたものの、その独特の立ち位置から存在感を発揮できている。 京都フュージョニアリングはイギリスのプログラムへの参画が決まったことなどを背景に、10月にイギリス法人を設立。今後、よりコミットメントを高めていこうとしている状況だ。2022年2月2日には、新たに約13億円の資金調達も発表している。
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