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平屋住宅がブームの様相を呈している。住宅着工棟数に占める割合は年々上昇し、2018年度は約1割に達した。子育てを終えたシニアの建て替え・住み替え手段として底堅い需要はこれまでもあったが、20―40代の一次取得者層もフラットな居住空間の使いやすさなどを理由に希望者が増えている。地域の住宅会社では専業ブランドを立ち上げる動きが広がり始めた。成熟期に入り、今後大幅な伸びが見込めない住宅市場にあって有望な商機として期待する声も上がる。(取材・葭本隆太) 「オシャレ」の認識も 千葉県袖ケ浦市に住む会社員、田中敬三さん(36歳)の夫婦は2017年5月に平屋住宅を建てた。マイホームにはパティオ(建物に囲まれた中庭)を取り入れたいと考えており、参考にした住宅などが平屋だったからだ。2階建ても検討したが、天井を高くでき、階段も使わなくてよいといった利点も踏まえて決めた。田中さんは「住み心地はとてもよいです。(2階建ての場合に1階と2階で生じる寒暖差がないなど)温度変化の少なさは予想外のメリットでした」と語る。 設計・施工を手がけたスタジオ・チッタ(千葉市中央区)はデザイン性などを武器に千葉県で年70棟程度の注文住宅を手がける。うち約20棟が平屋だ。同社事業部の中村仰希課長代理は「この2―3年で平屋を希望する若い顧客が増えました」と説明する。「(希望者は)マンションなどの生活動線に慣れていたり、家族のつながりを大事にしたりして、フラットな空間を求めている印象です。ゆったりとしたイメージを持つ『平屋』への憧れもあるようです」という。 国土交通省の建設着工統計によると、居住専門住宅の着工棟数に占める平屋の割合は18年度に10年度比1.5倍の9.9%に拡大した。平屋の市場動向に詳しい船井総合研究所(東京都千代田区)住宅・不動産支援本部の鶴田隼人シニア経営コンサルタントは「階段がなく使いやすい点は平屋需要を支えています。今の一次取得者は核家族化の進行やモノを多く持たない価値観の広がりなどを背景に、そこまで広い居住面積を求めない人が多いことも影響しているようです。若年層には『平屋はオシャレ』という認識も広がっているようです」と推察する。 (国土交通省・建設着工統計調査を基に作成)
11年の東日本大震災や16年の熊本地震も平屋人気が広がる契機になったとされる。住宅事業関係者の多くが「平屋の方が震災時に揺れにくく、潰れにくいので安心というイメージが広がり関心が高まった」と証言する。 ●平屋の価格・立地:船井総合研究所によると価格は大手ハウスメーカーが坪単価80万円程度で総工事費は2500万―3000万円、地域密着の住宅会社は坪単価50万円程度で総工事費1000万―2000万円で展開する。立地は一般に広い土地が必要になるため地方や郊外が多い。業界関係者によると、特に台風の多い九州では昔から多く、直近では北関東など首都圏近郊で増えている。 専門ブランド立ち上げ相次ぐ 拡大する平屋需要を掴もうと、主に低価格帯で勝負する地域の住宅会社では専門のブランドを掲げる動きが急速に広がり始めた。「この2年程度で30―40社」(鶴田シニア経営コンサルタント)が専門ブランドを新設した。 茨城県牛久市を中心に年60棟程度の戸建て住宅を手がけるミライエ(茨城県牛久市)はその一つ。17年11月に平屋ブランド「平屋本舗」を立ち上げた。古渡将也社長は「元々顧客の2―3割が平屋を希望しており、専門ブランドを掲げてそうした層に強く訴求しようと考えました」と背景を明かす。成熟する住宅市場の中で勝ち残るために他社との差別化を図る狙いもあった。 実際に期待した効果を発揮し、ブランド立ち上げ後1年間で30―40代を中心に約30棟を販売した。平屋本舗の立原庸寿事業統括は「会社の事業規模の拡大に貢献し始めています」と手応えを強調する。 ミライエが立ち上げた平屋ブランド「平屋本舗」(ミライエ) ミライエの顧客が平屋を選ぶポイントにはワンフロアの暮らしやすさなどのほか、総工事費の安さがある。屋根や基礎を二つのフロアで共有する2階建てと比べると坪単価は高くなるが、階段などを含めた2階部分がなくなる分、床面積が抑えられるため、建物の総額は抑えられるという。ミライエが提案する3LDKの場合、居住面積はほぼ同じで2階建ての約1400万円に対し、平屋は約1300万円と100万円ほど割安になる。 中高級価格帯でも需要拡大 中高級価格帯が主戦場のハウスメーカー大手の受注においても平屋は存在感を増している。特に住友林業は注文住宅に占める平屋の比率が受注ベースで13年度の14%から18年度は28%に拡大した。顧客は20―40代で6割程度を占めており、一次取得者層が需要を牽引する格好だ。 同社では2階建てに比べ屋根面積が大きくなりやすい平屋の特徴を生かして太陽光発電システムをふんだんに搭載したZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)を積極的に提案しており、それも需要を伸ばす要素になっている。住宅・建築事業本部技術商品開発部の中野邦彦マネージャーは「月々の電気代の削減につながり、非常時用の電源も確保できる利点が受け入れられています」と説明する。 住友林業は太陽光発電をふんだんに搭載した平屋を積極的に提案している(住友林業) 積水ハウスも「この10年ほどで平屋の受注棟数が2倍に増えています」(商品開発部鉄骨商品開発室の藤田弘樹室長)と証言する。その中で同社では、家のどこにいても地面と近く、外部とつながる平屋の「接地性」を生かした提案に力を入れている。藤田室長は「深い軒を活用し、強い日差しが避けられる広い中間領域の設計や大開口サッシの採用などは我々のPRポイント」と紹介する。 増えすぎると困る 今後、住宅市場に占める平屋の比率がどこまで拡大するかは不透明だ。ただ、あるハウスメーカー大手の担当者は「平屋は2階建てに比べて受注金額が下がるため、ビジネス視点でいうと本音は平屋よりも2階建てを売りたい」と明かした上で「平屋の希望者が増えているのは確実なので対応しなくてはいけません。それに平屋には『駄目』と指摘できる(マイナス)要素も現状は見当たりません」と説明する。さらに「多くの消費者にとっては今も戸建てといえば二階建て。町中で平屋を見かけるケースが今後増えるとより一般的な選択肢になる可能性があるでしょうね」と推察する。 また、別の住宅事業者は「空き家の問題を背景に土地は今後あまる方向に推移します。平屋が建てやすい土地が増え、平屋需要も伸びるのではないでしょうか」と見通す。需要者の動きや社会環境を踏まえると平屋市場が一層拡大する余地は大きい。
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