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オミクロン株の感染拡大の影響で、中国の深圳、上海、長春、青島などで厳しい外出制限が続いているが、昨今、中国の若者は非常時の強い味方であるインスタントラーメンをめっきり食べなくなったという。 その影響で中国のインスタント麺業界で4割のシェアを占める「康師傅」(カンシーフー)や、次に有名な「統一」(トンイー)などの食品企業は軒並み収益が悪化している。 若者たちがインスタントラーメンを食べなくなった背景には一体何があるのか?分析してみると、3つの理由が浮かび上がってくる。 健康志向が高まっている 1つ目の理由は健康志向ブーム、そして急激に変化する彼らの食生活だ。 Z世代と呼ばれる20代の若者たちは幼い頃からネットがある環境で育ち、あふれる情報の中で生活している。そこには国内だけでなく海外の情報も多数含まれており、とくに海外の美容やファッション、健康情報に関心が高い。 日本の「青汁」が身体によい、長寿になるという情報を聞けば、「青汁」をネットで取り寄せて毎日飲んでいるという人もいるし、都市部では退勤後にスポーツジムに通い、汗を流したあと、以前の中国人なら口にしなかった生野菜のサラダを食べたり、たんぱく質中心の食事を取ることを心がけたりしている、という人もいる。 従来、中国人の食事の定番であった脂っこい中華料理を避ける傾向さえ出てきている。 そのため、「健康にあまりよくない」「野菜がない」「太りやすい」「お腹を満たすだけ」といった負のイメージがあるインスタントラーメンもあまり食べなくなってきたのだ。 デリバリーが急激に発達した 2つ目の理由は、1つ目にも関連することだが、デリバリーの発達により、そもそもインスタントラーメンをあまり必要としなくなったことが挙げられる。 中国は世界一のデリバリー大国だ。「美団」(メイトワン)「餓了ma」(ウーラマ)に代表される大手企業のデリバリーサービスを使えば、1品からでも配送料なしで、数十分以内に自宅やオフィスのデスクまで料理を配送してくれる。 中華はもちろん、日本料理、ピザ、火鍋、サラダ、コーヒー1杯、ケーキ1個でも、どんな時間帯でも配送可能だ。 ロックダウン中でもマンションのゲートまでは配送してくれるので、家にインスタントラーメンや長期間日持ちする食品を買い置きしておく必要がない。ネットスーパーも非常に安く、日本のように配送の最低料金などは存在しない。 むろん、デリバリーよりもインスタントラーメンのほうが安くつくし、インスタントラーメンがもともと好きだという人、ファミリー層などの場合は常備している人ももちろんいるだろう。 だが、現地の報道によれば、一人暮らしの若者のインスタントラーメン離れが顕著だという。 中国の若者に聞くと、「以前はオフィスで残業するとき、買い置きしておいたインスタントラーメン(カップ麺)にお湯をさし、自分のデスクで黙々と食べている同僚がいましたが、数年前からデリバリーを頼む人が増え、カップ麺を食べている人はほとんど見かけなくなりました。 デリバリーはメニューが豊富だし、20~25元(約370~450円)くらいで、いろいろな食べ物が食べられるので、そっちの方が断然いいという人が多いんです」と話してくれた。 オフィスで夕方デリバリーで注文した食事を済ませ、そのまま家に帰るという人や、オフィスを出るときにデリバリーを注文し、家に着く時間帯にちょうど着くように届けてもらうという人も多い。そのため、味気ないインスタントラーメンを食べるというシチュエーションがなくなったのだ。 空港や駅での需要が激減した 3つ目の理由は空港やターミナル駅での需要の大幅な減少だ。 これは中国ならではの独特の理由だが、コロナ禍の前まで(2~3年前まで)、中国の各都市にある空港や高速鉄道(日本の新幹線に相当)のターミナル駅などでは、出発前に空港内にある給湯器で無料のお湯を入れて、インスタントラーメン(カップ麺タイプ)を食べる人が非常に多かった。 中国の空港やターミナル駅には給湯器があちこちに設置されている。給湯器のすぐそばで立ち食いしている人や、待合いの座席で座ってカップ麺をすすっている人を以前は頻繁に見かけた。 数年前、中国人にその理由を聞くと「空港内のレストランは値段がすごく高くてまずいから」だといっていた。 日本人の感覚では「出国前に、いざカップ麺で腹ごしらえだ」というのは不思議な感じがするが、同じ行動を取る中国人が非常に多いため、空港内やターミナル駅の売店では必ずカップ麺が1個ずつ売られていたし、カップ麺の自動販売機もあった。 中国の空港の自動販売機で売られていたカップ麺(筆者撮影) 中国のカップ麺は容器の中に折り畳み式の小さなフォークが入っているので、お湯さえあれば、いつでも、どこでも食べられる、とても便利なものなのだ。 だが、コロナ禍で空港はもちろん、高速鉄道に乗車して遠方に行く機会自体が減った。 また、全国の高速鉄道網が急速に整備され、かつては3時間かかっていた国内移動が2時間や1時間半になるなど、移動時間が短くなった。そのため、そもそも、「カップ麺で腹ごしらえ」をする必要がなく、あっという間に目的地に着くようになったのだ。 筆者は2019年の初め、香港から北京まで9時間列車に乗る長距離移動を経験した。その際、非常食として、念のため大きなパンを持参したが、車内販売では温かいお弁当や果物、飲み物が豊富にあり、筆者が見る限りでは、同じ車両でカップ麺を食べている人はいなかった。 以前であれば、「困ったときのため」カップ麺をスーツケースに入れて旅行先まで持って行った人もいたと聞くが、今では旅先でも、日常でも、食事のバリエーションは見違えるように増えた。そのため、必然的にインスタントラーメンが中国社会で占めていた“地位”はどんどん小さくなっているのだろう。 中島恵 ジャーナリスト 山梨県生まれ。フリージャーナリスト。著書は最新刊から順に「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日本経済新聞出版社)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国、香港、台湾、韓国などを取材。
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更新:20220318 21:50:05
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