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この事件、いったい何が起きているのか?

2020年08月06日

中国から「謎の種が届く事件」を解く有力な推理

不正レビューが成立するための巧妙なカラクリ

日本各地で中国から謎の種が郵送されてくる事件が話題になっています。この種は実は日本だけではなくアメリカにも大量に送られているようです。農林水産省は「海外から送られてきた種は蒔かないで」と外来生物の日本上陸について注意を呼び掛けています。そして種を送り付けられた当事者は「このあとどんな展開になるのか不安だ」と思われているようです。

私は経済評論家以外に地下クイズ王という肩書を持っているのですが、たまたま今月開催する地下クイズイベントのための取材をしていたところ、ネット犯罪に詳しい関係者にこの事件の詳しい解説を聞くことができました。

この記事ではネット関係者の目で分析した推理という前提で「おそらくこういうことなので(もし種が送られてきたとしても)必要以上に心配することはないだろう」という話をさせていただきます。事実に基づいてはいますが、あくまで業界関係者の話に推理を交えているという点と、私自身は中国やベトナムの現地オペレーションについてはそれほど詳しくはない点をあらかじめお断りしておきます。
急に種が送られてくるという5つの謎

この謎の種の事件、事実としては以下のような5つの謎があります。
①なぜ自分に送られてきたのか送られた本人は注文した記憶はまったくない
②届いた郵便物のラベルにはアクセサリーなどの商品名が書かれているが、中身は小さなパッケージに入った謎の種。品種はさまざま
③送られてきた人の多くは過去、ネット通販で中国から商品を送ってもらった経験がある
④中国郵政のロゴが入った宛名ラベルがどうやら偽造ラベルらしい
⑤宛名ラベルを剥がすとその下からベトナムの郵便ラベルが出てくる

「誰が何のために」という意図がわからない謎の種送り付け事件ですが、業界を知る立場では以下のような推理が成り立つというのです。実は何度か質問をしてようやく私も理解できた複雑なストーリーではありますが、その話をなるべくわかりやすく解説します。

先にこの事件の結論を言いましょう。これはアメリカの大手通販会社でのレビューを不正に高評価に吊り上げてくれる業者がいて、以下にお話しするような手口でレビュー操作をするために日本の見知らぬ人に種を送りつけていると見られます。

業界用語ではブラッシング詐欺と呼ばれる不正行為です。以下、4つのポイントに分けて解説をします。

◎ポイント1 不正レビューをする理由

そもそも何が行われているのかということから話しましょう。大手通販サイト上で化粧品や健康食品など利幅が大きな商品を売っている業者がいるとします。ここはあくまで一般論の前提です。たとえ本当はたいした効果がない商品だとしてもサイト上で過去の購入者からたくさんの「星5つ」の評価(注:一番良い評価)と好意的なレビューが書き込まれると、サイト内で目立つところに表示されるなどの恩恵があり、同時に目に見えて売れ行きが上がるという事実があります。

そこで不正に良いレビューを書き込んでくれる仕事を専門に受けてくれる不正レビュー業者が暗躍します。
◎ポイント2 不正レビューの方法とルールの変更

この不正業者は大量に作ったメールアドレスを使って大手通販会社の大量の架空アカウントを作ります。サイトに登録する日本の住所も架空です。そして出品業者からの依頼を受けて、これらの架空アカウントを使って商品を購入します
実際に商品が送られないとレビューが書き込めない

これまではそこで不正レビューを依頼した出品業者は架空注文に対しては商品を架空で発送したことにして、少し時間をおいてその架空アカウントでレビューを書き込んでもらっていました。ところがそのような不正の手口を通販サイトの運営会社が察知したためにレビュールールが変更されます。実際に商品が送られて相手に配達された記録が残らないと不正業者がレビューを書き込むことができなくなったといいます。

ところが不正レビュー業者の作った架空アカウントに登録されているのは架空の住所なのでそこに商品を送っても日本郵便が配達完了してくれません。送り先不明で戻ってしまいます。一方でもし新たに実在する住所氏名で架空アカウントを作った場合、今回のように商品を送った段階ですぐに不正アカウントだとばれてしまいます。だから不正アカウントを大量に作れなくなる。これがサイト側の防止策です。

そしてこの不正レビュー防止策をかいくぐる目的で開発されたのが今話題となっている「種を送る仕組み」だというのです。
◎ポイント3 種が実はベトナムから送られている理由

先に述べたとおりメディアの取材で送られてきた種が入っていた国際郵便物について2つの事実が判明しています。ひとつは表面に貼ってある中国郵政(China Post)のラベルが偽造であること。もうひとつがそのラベルを剥がすと下からベトナムの郵便のラベルが出現することです。




これらの理由を専門家に質問したところ話してもらえたのが以下の内容です。

そもそもインターネット通販で商品が海外から送られてくるケースが増えているのは、海外からのほうが郵便料金が安いことです。実際アマゾンなどでUSBケーブルのような小物を買うと中国から定形外郵便に入って届くのですが、これが都内から発送するよりも安い。

具体的には普通郵便で20gまで5人民元(約76円)ですから日本国内の84円よりも安い。ところがこの国際郵便のルール、途上国のほうがより有利になっていて、ベトナムからの発送だったら20gまで1万5000ベトナムドン(約65円)の郵便料金になります。

ベトナムから送られた郵便物は日本の税関を通った後、実質的に日本郵便のコストの持ち出しになって配達されるのですが、そこは国際条約があるために仕方がない。途上国から日本に届く郵便の配達は国内郵便業者の義務のようなものなのです。

ここに「種がベトナムから送られる」理由があります。郵送コストがただ同然に安いことと、荷物の中身も同様にただ同然で手に入る種だということが不正業者にとっては重要なのです。
◎ポイント4 不正が完成するための手口

さてここから先はあくまで推理ですが、おそらくこういうことが行われているという手口の話です。
不正レビュー業者によって作られるラベルは2枚

不正レビュー業者は通販出品業者からの依頼で架空アドレスを使って架空の購入をします。出品業者は架空アドレスの架空住所向けに発送するための中国郵政のラベルを打ち出します。このラベルはプリントアウトするだけで使いません。しかしプリントアウトしたことでラベルの番号がアメリカの大手通販事業者の記録に残ります。

不正レビュー業者は、別ルートで名簿業者から実在する日本の住所のリストを手に入れます。この送り先は実は何でもいい。今回の手口では過去に全然別の商品を全然別の業者から買った日本人の名簿が使われるケースが多いようです。

不正レビュー業者によって作られるラベルは2枚あって、ひとつはベトナムから日本に種を送る正規の郵送ラベル。もうひとつは途中で貼りかえる中国郵政の偽造ラベルで、その偽造ラベルに印刷される番号が先ほどの架空注文のラベル番号と同じで、住所だけが実際に存在する無関係の日本の住所宛に変更されたものになっています。


そしておそらくベトナムの港湾か空港の内部に不正業者の協力者がいる。ベトナムの郵便局で発送処理をした郵便物はその後のどこかのタイミングで中国郵政の偽造ラベルに貼りかえられ、中国発の郵便物の貨物に入れ替わるのではないかというのです。

日本の税関も日本郵便も中国郵政のラベルのついた郵便物をまさかラベルが偽造されているとは気づかずに実在する日本の住所に配達する。ベトナムから65円で発送されたただ同然の種を中国からの郵便物として日本の何の関係もない人宛に配達するのです。

そして配達が完了した記録が残ると、それがアメリカの大手通販サイトには配達完了と認識される。まさか登録されたアカウントとはまったく別住所に届いたとは気づかずに、大手通販サイトは購入した(ことになっている)架空アカウントのレビュアーにレビューの書き込みを許可するようになります。
コストは種の原価と65円の郵便代と協力費

それで不正業者は架空アカウント名で依頼業者の商品に堂々と高評価のレビューを書き込むことができるようになる。コストは種の原価と65円の郵便代とそして内通者に支払う協力費だけということになります。

以上が私の聞いた話の概要です。

この仕組みの解明はあくまで業界に詳しい人による推理でしかありません。とはいえ私が理解した限りでいえば「種が送り付けられてくる理由」をいちばん論理的に説明してくれる仕組みのように思えます。

植物防疫法の規定により、植物防疫官による検査を受けなければ、種子などの植物は輸入ができないことから、植物防疫所のホームページでは、「海外から注文していない植物が郵送された場合は、植物防疫所にご相談ください」と案内しています。もし種が届いたら植物防疫所へ通報する必要があります。

【2020年8月6日17時43分追記】初出時の「種は捨ててしまえばよい」との記述を植物防疫法の規定にのっとって、上記のように修正しました。ご注意ください。

そうだとしたら種自体についてはこれ以上問題にすることはないかもしれません。ただし注意は必要です。おそらく大手通販会社側もこの件の対策を講じるようになるでしょうし、不正業者側も何らかの新しい対抗策を練るでしょう。だとすれば次は手口が変わってくる可能性もあります。そして私たち消費者は偽のレビューに騙されてしまう。ですから本当に警戒が必要なのは種ではなくネット通販で売られている商品の品質だということなのです。

【2020年8月4日18時05分追記】初出時、ベトナムからの郵便料金の記述に一部不正確な部分があり修正しました。

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引用元の記事はこちら(https://toyokeizai.net/articles/-/367071)


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