2020年09月11日
奇妙な「だしの自動販売機」が全国で急増している理由
ヒット商品はこうして生まれた
写真:現代ビジネス
いま、だし醤油を売る自動販売機が話題を呼んでいる。飲料などを売る自動販売機で、ペットボトルの中身がだし醤油という意外性が注目され、有名になった『だし道楽』だ。
自動販売機に「だし」の大きな文字とトビウオのイラストが描かれ、ズラリと並ぶペットボトルの中にはあご(トビウオ)が丸ごと入っている。この光景はなかなかのインパクトである。
最初はSNSなどでその奇抜さが注目されて火が付き、徐々に拡散されていった。しかし、“自動販売機で売る”という意外性だけでなく、良質な商品自体の人気も相まって大きく売り上げが伸びているという。
この『だし道楽』を販売するのが広島県江田島にある二反田醤油だ。
2003年に『だし道楽』を発売し、2007年から自動販売機でも売るようになったという。『だし道楽』が誕生したきっかけは、伝統的な醤油メーカーが直面した醤油消費量の低迷だった。
外食が増え、家庭の食卓の洋食化と共に、醤油消費量はどんどん減り続けてきた。1980年には一人当たりの年間醤油使用量は4.5リットルだったのが、『だし道楽』が発売された2003年には、2.6リットル(「しょうゆ情報センター」一世帯当たり年間購入数量・支出金額の推移より)と、およそ半量にまでに落ち込んでしまっていたのである。
このまま醤油だけを作っていたのでは企業の存続にかかわる危機となる。そこで次の一手として、時代に寄り添った商品を販売できないだろうか、という思いからスタートし、試行錯誤を繰り返した上でたどり着いたのが『だし醤油』だったのだ。
トビウオを丸ごと入れた「意外な理由」
炭火焼きあごが丸々一本入った『焼きあご入りだし道楽』
「醤油の消費量が低迷していく中で、何か変わった商品ができないかと悩み抜きました。『だし道楽』はそうした迷いの末にたどり着いた商品です。
料理をする上で欠かせない酒、みりん、醤油を合わせる手間を省いて、誰でも簡単に使える商品にしたいと考えました。開発で重視したのは、どんな料理にも合わせやすく、使いやすいということです」(二反田醤油・広報担当者)
とはいえ、ただの『だし醤油』では他社に負けてしまうかもしれない。そこで差別化を図るために思いついたのが、昆布やあご(トビウオ)を丸ごと入れるという手法だ。こうすることで容器の中でだしのエキスが濃くなっていくというメリットもある。
『だし道楽』のバリエーションは3種類ある。基本は北海道産の昆布を入れ、醤油と合わせて熟成させた『だし道楽』。この昆布だし醤油をベースに、長崎・平戸産の焼きあごを丸ごと加えたのが『焼きあご入りだし道楽』。四国・土佐清水産の宗田カツオを入れたのが『宗田節入りだし道楽』だ。
二反田醤油では、開発した自信作のだしを味わってもらうために、直営のうどん店も手掛けている。当初『だし道楽』もその店で販売していたが、「もっと手軽に買えるようにして欲しい」という顧客の声に応え、24時間体制で販売できる自動販売機という画期的な方法に踏み切ったという。
話題性を意図して狙ったわけではなかったが、そのユニークな販売方法が後々『だし道楽』に注目を集めることとなったのだ。
自販機で年間50万本を売り上げる
販売数は年々好調で、2018年は販売本数約45万本、そのうち自販機での販売数はその約8割を占める。2019年には自動販売機の設置数が大きく増えたことにより、販売総数も飛躍的に増えて60万本、自動販売機での販売数は50万本と、全体の販売数の9割近くが自動販売機で販売されているというのが興味深い。
購入者も一般家庭の主婦はもちろん、単身者からプロの料理人まで幅広い。「万能に役立つだし」として、年々ファンを増やしている様子だ。
自動販売機の設置場所も、当初は広島周辺に限られていたが、注目度が高まると共に全国へと拡大。現在は北海道から九州まで17都道府県にまたがり、140台が設置されている。例えば東京でも六本木、浅草、五反田などで購入できるという。
二反田醤油では、詳しい設置場所を自社の公式HPで公開している。これによって、家の近くの販売場所がすぐに分かるという点も、購入増加に拍車をかけているのかもしれない。
また、HPでも販売されており、同社いわく品薄が続くほどの人気ぶりだという。
「『だし道楽』は昆布やあごを詰めるのもすべて手作業で行っています。購入にご不便をお掛けしておりますが、お客様に喜んで頂けるよう自動販売機の増台、新しい商品開発に努めて参ります」(前出・広報担当者)
ちなみに『だし道楽』のおすすめの使い方を聞いてみると、冷やしぶっかけうどんや冷奴などにそのまま使うほか、おでん、煮物、汁物などの味付けにもおすすめだそうだ。特に玉子との相性が抜群というから、卵かけご飯のお供など最高だろう。
手軽に料理に使える『だし道楽』は、自動販売機という予想外のツールを通して、これから先もまだまだ売れ行きを伸ばしそうだ。
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