2020年09月15日
タワマン売り始めた?「アジア富裕層」に想定外の税金
東京のタワーマンションなど日本の不動産をおう盛に買ってきた外国人投資家。コロナ禍で一転、売却の動きも出ていますが、そこで「想定外」と感じる課税があるようです。税理士の広田龍介さんの解説です。【毎日新聞経済プレミア】
◇外国人投資家「初めて知った」
近年、アジアの富裕者層を中心にした外国人投資家が、東京のタワーマンションや北海道のニセコなどのリゾート地、京都などの観光地にある不動産を購入するケースが目立っていた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響だろうか、このところ、外国人投資家がこうした不動産を売却することに伴う税務上の相談が増えている。
税務上の相談とは「源泉徴収制度」に関するものだ。
外国人投資家など、日本に住んでいない「非居住者」が日本国内の不動産を売却する場合、その不動産の買い手は、購入代金のうち10.21%を非居住者の所得税(復興特別所得税を含む)として源泉徴収し、納税する義務がある。つまり、買い手から非居住者に支払うのは、それを差し引いた残りの89.79%だ。これが源泉徴収制度の仕組みだ。
通常、不動産を売却すると、売却益が譲渡所得として所得税や法人税の課税対象になる。税務の相談に訪れる外国人投資家は、こうした利益に対する課税については十分承知しているが、源泉徴収制度については「初めて知った」という声を聞く。利益が出たかどうかに関わらず源泉徴収されることは「想定外」ととらえているようだ。
◇税務署に代わり税徴収
この源泉徴収制度にはいったいどんな狙いがあるのだろうか。
その目的は、非居住者の譲渡所得の申告漏れを防ぐことにある。
外国人投資家が日本で事業を行うのであれば、その事業に関する届け出をして、収益について申告するはずだ。しかし、単に、日本の滞在用などのために不動産を買うだけなら、何も届け出をせず、結果として申告漏れになる恐れがある。そこで、税務署に代わって、不動産の買い手に税を徴収してもらおうというわけだ。
この源泉徴収だけでも課税は完結してしまうのだが、非居住者が税を納めすぎているのなら、譲渡所得の確定申告をすれば、税額を精算して還付してもらうことができる。
外国人投資家には、源泉徴収制度のこうした意味や還付請求をする方法が、あまり理解されていないようだ。
◇加算税や延滞税の負担も
この源泉徴収制度については、もう一つ問題がある。
非居住者から不動産を購入するのは、何も法人だけではなく、個人ということもある。
源泉徴収制度では、不動産の購入金額が1億円以下で、かつ、それを個人が自分や親族の居住用とするのであれば、例外として源泉徴収の必要はない。しかし、それ以外の場合は、一般のサラリーマンでも源泉徴収の義務が生ずる。原則として、購入代金を支払った月の翌月の10日までに納めなければならない。
だが、不動産の売り手が非居住者であるとは知らず、源泉徴収漏れになるトラブルも発生している。売り手が日本人でも、海外に居住しているために非居住者だったというケースもある。
こうした場合、買い手は源泉徴収義務違反になってしまう。購入金額の10.21%分にあたる税は買い手が負担し、後日、売り手に請求することになる。加算税や延滞税は買い手の負担となる。
グローバル化が進むなか、国内の不動産の売り手が外国人であったり、日本人であっても海外居住であったりというケースも珍しくなくなっている。不動産を買う場合には、相手の住民票の確認をしなければならない時代になっている。
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