2021年03月23日
異色の高学歴大工集団「面白い仕事ができるから、人が集まる」
●生産性を上げる緊急提言
新型コロナで経済が揺れる中、「中小企業再編論」が持ち上がってきた。弱い中小企業を救う体力は、もはやこの国には残っていないかもしれない。だが、中小企業はまだまだ生産性を上げられる。2021年は勝負の年だ。
【関連画像】独特の経営が生む「質」で高級住宅を多数受注している(写真:廣瀬貴礼)
平成建設・秋元久雄 社長に聞く。常識が阻んでいた生産性向上 東大、京大卒業生もごろごろいる大工たち。しかもみな社員として育てている。そんな超異色の平成建設(静岡県沼津市)を率いる秋元久雄社長は、「うちに来たらすごい住宅を自分で建てて、設計までできる。
面白い仕事ができると思うから来るんだ」と言う。
社員のやる気を引き出し、組織を強くする最大の鍵は「仕事が楽しいかどうか」にあるということなのだろう。独特の会社をつくり上げた秋元社長の経営哲学は、人の力をどう生かすかという問いに真正面から答えるものだ。
―大卒者を大工として育てる独特の経営で知られます。狙いは何ですか。
秋元:1989年に建設会社の営業員から独立して創業したときから、そうするつもりで始めたんだ。なぜかというと、いずれ大工は世の中からいなくなると思ったんだ。団塊の世代(1947~49年生まれ)のあたりから、大学進学率がどんどん高くなっていった。 すると、昔ならこの業界に来て大工になっていた連中が、ならなくなる。それなら、しょうがない。自前で育てるしかないと思ったわけだ。 今、不動産部門を除く建設部門だけで約500人の社員がいるけど、うち約250人が大工になっているよ。5割だ。今年も東大から2人入ったかな。まあ東大がいいってわけじゃないけどな。
―それにしてもなぜ大工になるために入社してくるのですか。
秋元:まず採用は、今も俺が全国を回って学生にしゃべって入れている。工場で部材を作って現場で組み立てるという工業化されたハウスメーカーは、人が設計してプレカットしたものを組み立てるだけ。うちは、自分で部材加工からやって建てる。
家を建てる技能を磨きたいだけなら、それでいい。もっと本格的に設計までやりたいなら、設計部でやることもできる。大学の建築科を出ても、ハウスメーカーやゼネコンに入れば、どれか一部の仕事しかできない。うちは自分の発想を生かしていろんなことができる。それが面白いんじゃないか。
大工は多能工になる
―建築に関わる多くの工程をほとんど内製化していると聞きます。ほとんどのハウスメーカーやゼネコンは各工程を外注しています。
秋元:うちでは、大工は現場監督もやる。いろんな仕事を任される。当然、多能工にならないとやれないが、それが面白い。
売上高が同じ規模(平成建設の19年度売上高は約150億円)だったら、4倍の社員数がいるといわれるけど、多能工化しているから問題ない。
それに、世の中には戸建てにもマンションにも高級住宅というものがある。規格化された建築ばかりする会社が増えたら、それを誰がやるの。
うちは個人の住宅だったら大体平均で建築価格が5000万円くらい。億単位の家も普通だよ。そういう家の建築を受けられる企業がなければ世の中が困るでしょう。グッドデザイン賞も何回も取っているよ。
―そういう市場を狙っているからむしろ大工を社員にして、内製にしたほうがいいと。
秋元:まあ、そうだな。創業してしばらくの間、アウトソーシングする比率を上げたほうがいいと、いろんな人によく言われたよ。内製は「絶対に失敗するからやめたほうがいい」ってね。まともな人たちほど、そう言うんだ。
でも、俺は思った。「ああ、この人たちは、俺のまねを絶対にしないな」と。それにね、仕事が来なけりゃ、アウトソーシングしようがどうしようが潰れるんだよ。その一方で、この方法のほうがデザインにせよ品質にせよ、いいものを作れる。そう考えたんだ。
そもそも大企業は資金力を生かして工業化できるけれど、中小企業はできないだろ。それなのに大手と似たようなビジネスモデルをやりたがるんだ。それじゃ、生産性で勝てるわけないじゃない。これが分からない中小企業のおやじたちがいっぱいいるんだよ。
●リーダーは選挙で選ぶ
―現場や事業を動かすリーダーを投票で選ぶと聞きましたが、どういう仕組みですか。
秋元:そうそう。課長とか部長という役職はあるけど、実際に現場や事業を動かすのはリーダーとかサブリーダー。それは投票で毎年選ぶことにしている。彼らが現場を動かすし、会議に出るのもリーダーだけ。部長とか課長という役職は資格に近いね。
一番大事なのは現場では指導力。それに、人の配置や評価まで考えていく人事力などが問われる。投票で実力に応じて入れ替わるんだから仕方ない。まあでも、リーダーを外れても主席技術員といった立場になって、また現場で働くことになるから、そんなに腐ることもないよ。給料まで下げるようなことはしないし。
―大工から他の仕事に移る人は多いのですか。
秋元:大工工事部から設計部に行っているのもいるし、リフォーム部に移った社員もいる。中には、うちで大工をやったけど向かないと思って、会社を辞めてまた大学に入ったのもいるよ。去年、その1人が東大の理Ⅲ(理科三類)に行ったよ。それでいいんだ。やりたいことをやるのが大事だ。
(この記事は、「日経トップリーダー」2021年1月号の記事を基に構成しました)
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